リボンの騎士ミュージカルネタバレ

2006年8月7日、夜公演。
演出の木村信司氏がテレビで「アイドルだからこそビックリさせたい」みたいなことを言っていましたが、
実際ビックリしましたよ。


・キャラクターについて
前半は完全に心奪われました。
もう大ロマンの世界でね。
「アドリブ禁止」みたいなことも事前に聞いていたけど、「うさちゃんピース!」とか、アドリブ的なセリフを織り込んであるから、堅苦しさはなかったですしね。


なんつーか、歌唱法が違うんですかね? 石川のフランツ、「こんな歌声が出るんだ!」って驚きがあったし、
脚本上でもほんの少しバカっぽいというか、陽気な性格になっているのも合っていましたね。
サファイア高橋愛も、女っぽいサファイア、男っぽいサファイア、さらに「身体が男になってしまったのに女らしくふるまうサファイア」などを演じ分けていて、見ながら唸ることしきりでした。


高橋愛を観るたびに思うんだけど、まあはっきり言ってこの人はバラエティ適性がものすごく低いんだけど、演じる、何かになりきるとすごい力を発揮するなあ、と。
ただこの能力は、テレビでは伝わりにくいんだよね。
マイクパフォーマンスの下手な、実力派の格闘家みたいな印象です。


他の子もみんな良かったけど、吉澤&小川のコンビが最後に大舞台で実現できて小川には良かったなあと思うのと、
それと小川はこのミュージカルでは非常に重要な位置にあったと思います。
というのは、まともに男装してかろうじて男の子に見えるのって、小川だけなんですよ。
後は「男に見える設定」というにすぎない。
これ、全体のバランスとしてはかなり重要で、小川がいなかったらお嬢様女子高の学園祭でやる演劇のような、もっとずっと甘ったるい雰囲気になっていたと思いますね。
本来、小川が娘。に入ったときに与えられるはずだったのは、おそらくこうした「男の子みたいな女の子」という雰囲気であって、
最後にそれがドンピシャリの役柄で与えられたんだな、と思いました。


久住も堂々としていて「すごいな」と思わせるんだけど、まあハマリ役であるというのは有利だったと思います。


辻は松葉杖で登場。「足は大丈夫か?」などのセリフで笑いを取ってましたが、世界観を壊さないでこういう出方ができるのはやはり辻ちゃんくらいかなと思いました。まあ出番の量がそれほどでもないというのがありますけどね。


他の子たちに対しても書きたいことはあるけど、ひとまず置きます。


・ストーリーについて
以下、ものすごくガチに書きます。
私、テレビでの脚本・演出の木村信司氏の話を聞いて、もっと大胆にトランスジェンダーの話、あるいは「男の心と女の心とは何か?」という話になると思ってたんですよね。
でも、通して見た印象としては、「女の心を持ったサファイアに、男の心が付随している」という感じでした。
あまり「男の心と女の心の間で揺れ動く」とか、そういう感じではなかったと思います。


いや前半ではかなりそういう部分はあったんですよ。
王子としての自分と、「亜麻色の髪の乙女」としての自分、というのはあった。


ところが、後半になって魔女が登場し、「女の心を与えることによって肉体まで男になってしまった」ということになると、なかなか評価がむずかしいです。
「女の魂」を取られたサファイアは、自分の身体を投げ出すことによってフランツの愛を取り戻すわけですが、この展開では「女の魂、男の魂」というのを分けているにも関わらず、サファイア自身のフランツへの愛は完全に女のものになっている。


私は、むしろ、「女の魂も男の魂も、性差はあるがけっきょくは同じものだ。だから、フランツは両方の魂を持ったサファイアをそのまま受け入れる」という展開にしたら、もっと傑作になっていたと思うんです。
そんな展開にしても、魔女をからめることは可能だったでしょうしね。


けっきょく、全編を通すと「男と女、両方の心を持った王子」というよりは、「男の心を付与された女であるサファイア」という要素が強いんですね。


たとえば「男の魂」(剣技を磨きたいなど)にワクワクしてしまう気持ちと、女性としてフランツを愛してしまう気持ち、双方にサファイアが未練を持って葛藤するような描写がもう少しあればね……というのはまあ、おれ「リボンの騎士」という感じで書いてもしょうがないことではあるんですけど。


それともうひとつは牢番たちのキャラ。牢番だけが、本作では一般庶民に近い。だから、大臣の圧政を自分の言葉で表現できるのって、たぶん牢番だけだったと思うんですよ。辻の裏切りが、大臣の圧政によるものだとはっきりしていれば、牢番たちのキャラはもっと立ったと思います。


最後に魔女。からめ方がむずかしい役ですが、少なくとも第一幕のいちばん冒頭のシーンで、「魂を盗む」ことにもう少し関わっていないと、神様から下界に使わされたメンバーの中でなぜいちばん孤独で損な役回りを引き受けたかがわからないんですよね。
吉澤と二人で魂を盗んだとか、なんかもっとそういう「罪」が明確だった方がいいような気がしました。


しかしまあ、どちらにしても非常に面白いミュージカルでしたよ。演出家自体がどれくらいのレベルを望んでいたかはわからないけど、ここまでやれたのはとにかくすごい。彼女たちはミュージカルの専門家でもないし、今後こういう方法論でこういうお芝居をする機会がたくさんあるわけでもない。
でも努力してここまでできてしまうんだなあ、と、「すごいなあ」という気持ちが強かったですね。


追記
そうか、牢番と魔女のエピソードは原作になんか説明があるのかもしれないな。ほとんどアニメしか見てなかったもんで、わからなかったけど。