グラビアアイドル前史(間違っていたらご指摘ください)

Tabiさん経由で、いくつかグラビア周りの話題を知る。
エロ本編集者の憂鬱と希望では黒田美礼青木裕子の重要性について強調されているが、彼女たちのグラビア界への貢献度の大きさへの評価に何ら違和感はないけれども、さて次の企画はで多く言及されている雛形あきこへの評価の方が、個人的にはしっくり来る。


また、グラビアアイドル - Wikipediaは通史としてアグネス・ラムや水着キャンペーンガール堀江しのぶにも言及されていて通史としてはうなずけるが、とくに「癒し系」グラビアアイドルを重視しているところが興味深い、と思ったりした。


広義の「エロ」関係はどこからどこまで「くくる」かで観点が変わってくるとは思う。あまり広げすぎるのも自分で書いててどうかと思うのだが、やはり関係あることだと思うので補完的なことを書いておくことにする。


グラビアアイドルの席巻を許した原因として、「アイドル冬の時代」、「歌を歌うアイドルが売れない」という状況があったことは間違いがないが、ではなぜアイドルが売れなくなったかというと、ミもフタもない話だがAVが普及したからではないかと思う。
実は私はAVを見るという習慣が昔からないキモチワルイ人間なので、はっきりと時代感覚としてそうだと言いきれないのが難だが、案外男の生理というのは単純なものではないかとも一方では思うのだ。


何しろ、それまでの80年代中盤頃までと言えば、エロ動画を見るためには高校生は(おとうさんの背広を着るなどして)「変装して」、ポルノ映画館に直接入らないと見られなかったのであるからして。


で、もうひとつグラビアアイドル発展を裏で支える事情があると思う。
それは宮沢りえの「Santa Fe」(1991)の出版である。
ヘア・ヌードとしていちばん最初に話題になったのは同年の樋口可南子写真集「water fruit」だが、宮沢りえの「Santa Fe」の衝撃度はそれを上回るものだった。
(調べたらどちらも同じ1991年発行なのか? もっと2、3年空いているような印象があるが……。)


何しろ宮沢りえと言ったら当時人気の頂点にあった。現在、比肩するアイドルがちょっと思い当たらないくらいである。その彼女がヘア・ヌード写真集を出す……。まあそうだなあ、これは人気絶頂時の広末涼子後藤真希がヘア・ヌードにもしもなったら、と思えばいい。
彼女がそれほどのことをしてしまったために、以後「脱いで人気の挽回を図る」ということが女性アイドルにおいてほとんどできなくなってしまうのだ。
いや先を急ぎすぎた。その前に、猫も杓子も脱いでしまうという「ヘア・ヌードバブル」が起こる。
井狩春男の「ヘア・ヌード完全カタログ」という本が、1994年には出版されている。


サンタフェ・ショックから3年の間に、カタログができるほどヘア・ヌード写真集が発売されたということである(友人が持っていて見せてもらったが、カタログの名に恥じない結構な量の写真集が紹介されている)。
常盤貴子が何とテレビドラマで「脱いだ」、「悪魔のKISS」が93年。当時、彼女がどのランクの女優だったかは忘れてしまったが、エロ規制が強まったと思われる現状のテレビでは考えられないし、当時も「テレビドラマで脱ぐ」というのは、言っては悪いが多くの場合あまりランクの高い女優さんではなかった。
そういう、それまでの状況とはうって変わって彼女が脱いだのにはヘア・ヌードバブルの影響があると思う。


さらに余談になるが、現在「着エロ」で十把一絡げの扱いを受けている人たちは、たぶん91〜94年頃にモデルとして存在していたならば、確実にヘア・ヌードになっていた人たちであろう。


宮沢りえが脱いでしまったため、彼女よりランクが下のタレントが「脱いで人気を挽回する」という手段がかなり効力の薄いものになってしまった。
もちろん現在に至るまで、脱がなかったタレントが写真集でヌードになるということはあるが、それは宮沢りえ以前とは多少意味あいが異なるものになってしまった。
(記憶では、宮沢りえ以降脱いだ大物としては高岡早紀とか菅野美穂がいるんだけど。)


そうなってしまうと、ヌードになるという「伝家の宝刀」にも慎重になるのが人情というもの。
野田社長の「所属タレントはヌードにはぜったいさせない」という方針は、ヘア・ヌードバブルを目の当たりにしてできたものだと思う。
雛形あきこ以降のグラビアアイドルの台頭は、逆に言うと「それ以上脱げないから」という要因が大きいのではないかと思う。


ヘア・ヌードバブルが一段落する94年に雛形あきこ広末涼子、双方が注目され出すのは偶然ではないと思われる。
かたやヌードを禁じ手としたときにも放つオーラによって、かたや新しい美少女のスタンダードとして、ヘア・ヌードに対して膨満感すら持っていた人々に衝撃を与えたのであった。


さて、もうひとつは少年・青年マンガ雑誌の自主規制がある。
コレがいつ頃からかは調べていないが、マンガ内のエロ描写は90年代初頭から、確実におとなしくなっている。
間接的にはミヤザキ事件の影響があると思う。
しかし、少年・青年誌における、読者が求めるエロの一定量は変わらない。かといってヌードを載せるわけにもいかない(一時期、青年誌ではセミヌードを載せていた記憶もあるが)、そこで起用されたのがグラビアアイドルではないかというのが、私の予測である。
(マンガそのものの衰退も関係しているのだろうが、それはまた別の話。)


要するに、もっとも過激なことはAVがやり、ヌードになることは宮沢りえ以降、価値が暴落してしまい、少年・青年誌ではお色気を導入するために「ちょうどいい感じ」が必要になったということで重宝されているのがグラビアアイドルではないか、ということだ。