面白い芸人と楽しい芸人

芸人のジレンマ : 岡田斗司夫のプチクリ日記


自分がこの年齢になってやっとわかったのは、「芸人」と「テレビ」は完全なる対応関係にはない、ということ。
まあ、考えてみりゃ当たり前のことなんだけどね。


実は私は、連続的にテレビでお笑いを見続けてきたわけではない。
それまでは、2000年以降のネタブームを待っていたような感じ。


なんでかというと、「自分の求めているお笑いはテレビが恒常的に求めているわけではない」と悟ったから。
いつ頃だったか。ボキャブラブームの直前くらいかなあ?


ただ、「舞台でやるものこそが本当のお笑い」だとか「テレビでは芸人がバカ騒ぎしている番組ばかり」だとか批判するのもどうかとは思ってた。
(驚くべきことに、いまだに「テレビで芸人がバカ騒ぎばかりしている」みたいなことをネットで書いている人がいる。でも、こういう人の中には「現在やっているものは常につまらない」という意識があって、たとえばかつてのたけし軍団のバカ騒ぎと、ドリフのバカ騒ぎと、もっと前と、そういうのを比較するという意識すらない。こういう人にとって過去はいつも美しく、現在は混沌にしか見えなかったりする。)


話を戻す。
まあいきなり話を終わりにしちゃうけど、芸人それぞれゴールがあるんじゃないのかな?
たとえば逆に「ぜったいテレビでやれないようなことをやっている」人だっているわけでしょう。
その人のゴールがどこなのかはわからないけど、でもあるんでしょうたぶん。


んだから、みんなわかってやってるんじゃないのかなあ、と思う(それは細かいレベルでは、いろいろとあるんでしょうが)。


私個人は、いくら望んでも、テレビにおいて完全に風向き次第で観たいものが決まってしまうことを感じてから、一時期テレビのお笑いには興味を失ってましたね。
これはどんなジャンルでもそうだけどね。
音楽なんかもそうでしょう多分。


だから、私はあまりせつないとかは思わないです。
そりゃ、完全にパッケージングされた自分像みたいなものを、到底到達不可能な目標に設定していたりしたら(たとえば「夢で逢えたら」当時のダウンタウンみたいになりたいとか)悲惨は悲惨かもしれないけど、
それもその人の選んだ道なんだし。


えー、そんなぼやきを書こうと思ったんじゃないんだった。


私が興味があるのは、「吉本興業が何を目指しているのか?」です。
この辺ぜんぜん知らないからね。


何が言いたいかというと、吉本って初めて、舞台でもテレビでも通用する芸人を育成しようとした事務所なんじゃないかと。
この辺、私の勘違いかもしれないけど。


具体的に言うと、私の中では「ダウンタウン以前、以後」というイメージがあって、それまでは舞台中心の芸人がテレビに合わせるか、もしくはテレビでしか通用しない芸人をつくるか、しか無かったように思う。
うーんと、正確には違うんですけどね。
欽ちゃんとかいたし。


欽ちゃんファミリーの人って、たぶん舞台とかミュージカルとかやらせてもできると思うんですよ。
でも、それは「テレビも、舞台もできる」ということであって、
かなり個人の中でも振り分けなきゃならなかったと思う。


でも、たとえば友近のやってることって、テレビも舞台も基本的には変わりないんですよ。
そりゃ演出上の違いはあるし、舞台だと長くやれるとかはあるけど、大きく切り替えているわけではない(と思う)。


その下地はどこでできたか? というと、
やはりダウンタウンの頃から、としか考えられない。
(厳密に言えば「とんねるず」もそうかもしれないけど、方法論を確立したのはダウンタウンだと思う。)


で、吉本興業という会社を知らないでここからはまったくの想像で書きますが、
ダウンタウン以降の芸人というのは、すべてテレビに射程を合わせつつ、舞台でも通用するというふうに育成されてきたのではないか?
それは、視聴者の意識が変わったということとコミで。


だから、個人的には2000年以降のテレビのお笑いブームには、私はある程度希望を持っているわけです。
以前にも書きましたが、宝泉薫がどこかで1980年以降のお笑いブームにおいて、紳助は「漫才」を捨てたからテレビで生き残って、B&Bは漫才にこだわったから紳助ほどテレビでメジャーになれなかった的なことを書いていましたが、
この文章は、個人的には「テレビで売れることと芸を研ぎ澄ますことは違う」という指摘があったという意味で当時目からウロコでした。


80年代のお笑いブームから20年が経って、
その間にはダウンタウンがある。


そうしたら、80年代の紳助とB&Bの中間点にあるような存在が、育成されうる余地があるのではないか?
そして、もしかして吉本興業ってそういうのを目指しているのではないか?


……と、ちょっと思っているんですがね。


吉本はお茶の間レベルでは金稼ぎにアコギだって言われているでしょう。
でも劇場持ってるんですよね。
まあ細かいことはわからないけど、劇場ってそんなに儲からないのでは?
本当に荒稼ぎしたいなら、テレビタレントを育成した方がいいと思う。
でも、現状で吉本ってそうなってない。
だったらそれはなぜ? というところが、個人的には面白いんです。
(いや、内情を詳しく知っている人はとてもそう思えないかもしれないし、吉本も一枚岩ではないかもしれないですけどね。)


これまた知らないまま書きますが、「テレビタレントの育成」という意味でいちばん研ぎ澄ましているのって、ワタナベエンターテインメントだと思うんですよ。顔ぶれを観ていると。
でも、じゃあ研ぎ澄ましているからといって、別にワタナベエンターテインメントがテレビのバラエティ界を席巻しているわけでもないから、
それがテレビの余地かな、とも思ったりするんですけどね。