「江戸にフランス革命を!」橋本治(1989、青土社)

タイトルは「何で江戸の町人文化は、その豊かさにも関わらず明治維新を支える思想を準備しなかったのか?」という著者のいらだちに基づいている。結論から言うと、その「何でか」は書いてません。
江戸文化の本といってもいろいろあるが、本書は歌舞伎と浮世絵が中心。そこに、社会システムも含めた「総論」的な「江戸はなぜ難解か?」がはさまっているという構成。


橋本治は、他に「80」というのの上巻しか読んだことがない。2冊だけ読んだ印象だけで書くと、本人は学生運動には参加していなかったというが、まさにドンピシャの「その世代」のインテリという感じ(1948年生まれ)。
要するに、常に民衆から(本書では「市民」と「大衆」を分けていたりしてわかりにくいんだが)何らかの変革が起こることを望んでいる。で、世相を見たり歴史を調べたりして、「何でここでそれが起こらなかったんだ」、「あ、ここでもその可能性があるのに何で起こらなかったんだ」っていちいち指摘して憤る。あるいは「関係ないよ」ってすねてみせたりする。


そんな感じ。


ちょうどこの本が出た頃に、地味に江戸文化を再評価する「江戸ブーム」が始まっていて(「お江戸でござる」なんかはその成果でしょう)、それに対するアンチテーゼとしては意味があったと思うけど、今現在、私が思うことっていうのは「江戸文化ってのは、インテリにとって肯定するか否定するしかねえんだなあ」ということくらいだ。
そういう「肯定か否定か」を自分の中で突き詰めていくだけの真摯さは、この本にはあると思ったけどね。


インテリってのはいばりたがりで超然としたがりで、またそうでないと商売にならないというところがあるのだけれど、橋本治ってのは2冊読んだかぎりではとびっきり「現世から離れちゃってる」印象が強い。
だから、私にとってはあまりにもクールすぎる。
「江戸には乞食には乞食の秩序があった」ってうかつにも書いてるけど、今のホームレスにだって秩序はあるでしょう。何らかの。


この人が対社会において、どんな孤独、どんな苦しみを持っているのかは知らないけど、なんかねえ、才能ありすぎてついていけないんですよね。
ただまあ、いろいろ勉強にはなる本です。