世界人糞祭り

ものすごい厳しい先生が、クラスに赴任してきた。
頭は角刈りで、竹刀を持っている。PTAがうるさいからか、それでぶったりはしないが怒鳴り声がすごい。
威圧感がハンパじゃない。
宿題を忘れた、と言えずに泣いてしまう子もいた。
半年くらい、生徒たちはおとなしくしていた。

そう、10月10日までは。
10月10日、体育の日でもあるが世界人糞まつりの日でもある。
そのことを、先生は知らなかったようだ。えっ、先生なのに？

人糞まつりは粛々と行われる。
まず、宿題を忘れた子が席を立つ。先生はいつものとおり、近づいていってものすごい剣幕で怒鳴った。
「先生、すいません、すいません……」
その子は先生の背広をつかんでむしゃぶりついて泣いた。
先生は迷惑そうに、その子の手をはらった。
その段階で、背広は人糞だらけになっている。

宿題を忘れた子の両手は、人糞で真っ茶色だった。その手で背広をつかんだからだ。

先生は一瞬あっけにとられた。考えても見てほしい。
身近な人間が、手に人糞を付けて触ってくると思うだろうか？
「殴ってくる」ことはまだあったとしても、「人糞のついた手で触ってくる」ということを予測できる人間はいない。

自分の背広（この先生はけっこう身だしなみにうるさい）にウンコが着いていると知り、だんだんと顔が怒りで真っ赤になってくる。
彼がいよいよ怒鳴ろうとした次の瞬間、教室のドアがガラッと開いて、

坊主頭で上半身裸の三兄弟が乱入してきた。
そして、両手のゲンコツで教師をボコボコにぶん殴った。
教師は血みどろになり、息もたえだえ。半死半生になったところに、ピエロが十人くらい現れて、
子供たちにゲームボーイを配りだした（ニンテンドーDSじゃなくて、あえてゲームボーイ）。

ゲームボーイに夢中になる子供たち。
「い、医者を……」
タンコブに埋もれた顔でかろうじて言う横暴教師。しかしだれも聞いていなかった。

こうして「世界人糞まつり」は終わった。
人糞が最初にしか登場しない、尻つぼみな祭りであった。
祭りの責任者は自殺。「世界人糞まつり委員会」は責任をとって解散となった。

横暴教師は半月ほど入院していたが、退院してきたら最初に自分に人糞をなすりつけた少年を集中的にいじめるようになった。
一週間が過ぎた。

アパートの一室で眠っていた横暴教師は、午前５時、ドンドンドンというドアを叩く音で目が覚めた。
何事かとドアを開けると、ペアのトレーナーを着たオカッパ頭の男女二人がドーベルマンをけしかけてきた。
横暴教師は、ドーベルマンに左腕を食いちぎられた。
ペアのトレーナーを着たオカッパ頭の男女、それはいじめられていた少年の両親だった。

横暴教師は、アパートの窓から飛び降りた。

下は肥だめだった。

「ニュー世界人糞まつり」の始まりだった。
（完）

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