明日へ向かって

以下は、カテゴリは「お洒落STORY」になってますが、実話です。


一週間くらい前、平日が休みになったので名画座っぽい映画館に映画を見に行った。
はっきり言って、平日の名画座っぽい映画館はダメな感じが横溢している。
ヒマな若者、もてなそうな中年、明日なき老人、
あと謎なのが、髪が腰まであって昔のアグネス・チャンみたいな髪型をした初老の女性とかがいる。
こういう女性はロビーで持ってきた弁当などをやたら食べる。


映画を観ている最中、ニット帽かぶった青年が、
「テメーコノヤロー、映画観てんだから静かにしろよ!!」
みたいなことを大声で叫んだ。
隣にいたのは、白い手提げの紙袋を持った老人。
私は後ろの方の席にいたから気づかなかったけど、なんかぶつぶつ言っていたらしい。


怒声を浴びせられた老人は、そそくさと別の席に移っていった。


映画が終わって、パッとあかりがついてその老人の姿が見えた。
言っちゃ悪いが明らかに裕福でなさそうな、しかも平日の映画館にいるということは家族もいなさそうな老人だった。


数日経って、またその名画座へ行った。
また、この間怒鳴られていた老人がいた。
白い手提げの紙袋を持っていたから、間違いない。
映画が始まる前、隣の席の大学生風の若者に何やら話しかけていた。
若者は、あきらかに迷惑そうだった。
ははーあ、もしかしてこの前、映画の上映中にこれをやってたのかな……?
そう思ったが、まあそんなことは自分にはどうでもよかった。


老人は、二本立ての映画の二本目の途中で映画館から出ていった。
(こういったタイプの老人は、映画が始まったとたんにグーグーいびきをかいて寝てしまったり、映画の途中で出ていってしまったりと、なぜか映画そのものには執着がないことが多い。)


二本目の映画が終わり、私も映画館の外に出た。
すると、さっきの老人とはまったく別の、
しかし風体は明らかに裕福そうでない老人が、
片手にプリモプエル(男の子型の、しゃべる人形。寂しい老人の間で人気だとかずっと前にテレビでやっていた)を抱いて、
向こうから歩いてきた。


そのプリモプエルが、その老人の風体にまったくそぐわなかった、しかしもしかしてこの老人はすごく寂しいのではないか? というシンボルにしっかりなってしまっている、
そのことにものすごく寂しい気持ちになった。


みんな、がんばろう! おれもがんばるから。


それだけの話です。