モエモエ談義3

自分で書いていて思ったのだが、自分は「萌え」よりも80年代の「アニメ絵」にこだわりがあるんですよ。
正確には70年代後半から80年代くらいに(マンガの中に)だんだんと出来てきた画風ですよね。
それは自分としてはいくら強調してもしたりない出来事だったように思います。
まあ、「それほどでもねえじゃん」、「コップの中の嵐じゃん」っていう人がいてもぜんぜんおかしくないとは思いますけどね。


ジジイの繰り言と思われてもいいので(あるいは上の世代から勘違いを指摘されてもいいので)、この辺の事情について書いてみますけど。


けっきょく、「少年、青年マンガでセクシャルな女性を描くにはどうしたらいいか」という問題があって、
いちおう記憶だけで書くと手塚〜石森、永井豪、藤子ラインが(やや乱暴に言えば)あって、
他にプレイメイトとか、プレイボーイに載ってるセクシーガールのイラストなんかを起源とするのもあって、
後は小島剛夕の描く女性とかね。ケン月影小島剛夕に影響を受けたかどうかは知らないけど……。
他にも劇画系にはいろいろいましたけど。
それと重要なのは、「少女マンガ的手法」を少年マンガ家が取り入れだしたということ。


で、そういう大きな流れはあっても、「だれでも人気が出るほどかわいい女の子を描ける」っていう方法論は、なかった気がしますね。
少年マンガに限れば、それほどそういうことを要求されなかったというのもあるだろうし。


うる星やつら」が出たときも、あれは高橋留美子の絵で、高橋留美子は別に「アニメ絵」ではなかった。
(リアルタイムで友人と話したことで覚えているのは、「初期の高橋留美子って顔がアップになったときにほっぺたに斜線が入ってて、なんか汚い」というような話。)
だからいくら考えても「萌え」文脈、「二次元のセクシャルな女の子」っていうことで考えると、高橋留美子って微妙なんですよ。
他にも、江口寿史とか桂正和も80年代初頭に「かわいい女の子を描く」って人気が出た人たちだけど、あれはかれらオリジナルの方法があったわけで、たやすく模倣できるものではなかった。
黒岩よしひろになると、ようやく私の考える「アニメ絵」に近くなるんですが。


ロリコンブーム時の吾妻ひでおも、方法論的にはアニメ絵ではないし、少年ラブコメを描いたあだち充原秀則なんかも当然アニメ絵ではない。でも手法としては厳然として存在してた。
だから音楽でたとえると(どうせ私だから古いたとえだけど)、ユーロビートとかハウスの中にいきなりミニマルテクノを突っ込んだような違和感が「アニメ絵」にはありましたね。
でも同時に、かなり強固なスタイルを確立してたわけです。


それはHIPHOPが音楽以外に、グラフィティだとかブレイクダンスだとかという要素が不可欠(らしい)のと同じ気がしますね。
だから逆に言えば「みんな同じ」って言われて批判された。
もう好きな人と嫌いな人がはっきり分かれてて、かろうじてゆうきまさみとかはアリだったけど萩原一至はナシ、みたいなね。そういうのがすごくあったと思う。


「それが何なのか?」っていうことをずっと考えてきたんですよ。結論出なかったけど。
批判のひとつには「模倣しやすい」ってのがあった。逆に言えばオリジナリティがないと。もしかして大塚英志あたりが指摘しているかもしれないけど、模倣しやすい、っていうのはそのジャンルが広がる一因であって、必ずしも非難のみされるべきものではない。


「スーパージェッター」の久松文雄が「手塚に絵が似てるから」ってデビュー当時、起用されたとか何とかどこかに書いてあったけど、手塚の絵の模倣が爆発的に広がっていったことを思うと、「アニメ絵」の模倣のというのはそれの縮小再生産だった。
この「縮小」の部分を評価するかしないかで、アニメ絵の評価は変わっていったと思う。


80年代のアニメ絵は、現在「萌え」対象となっている絵柄から比べるとずっとベタついていて、劇画っぽい。
でも、その頃にも「人間のぬくもりがない」とか批判されてましたけどね。


「アニメ絵」は、微妙に変化し続けたんだけど、決定的だったのは95年あたりだと思う。名指しして非常に悪いんだが、あろひろしの絵柄とかが急速に古く思えるようになったのが95年頃。
きちんと調べてないが、今の若い衆が「おお、これだこれだ」って思えるような絵柄はこの頃出てきたんではないかという気がする。


それであらためて思うんだけど、「萌える絵」ってアニメ絵がないと生まれなかったと思うんだ。
私は、果たして明確に区別していいものかどうか? とも思っているけど、区別したとして、「アニメ絵」から生まれたとしか思えない。
だから極端なことを言うと、「オタク好みのする典型的な美少女」って二段階しかない。まず「アニメ絵」が生まれて、その次に「今、『萌え』と言われる絵柄」が生まれたわけだから。


それは通史として現在から観て、「いつ頃まで感覚的に萌えないからコレは違う」とか言うのはどうなの、と強く思う。
何度も書いてきたけど、少年マンガで「かわいい女の子を描こう」っていう意志で描かれた女の子って、まだ25年しか経ってないわけだから。
アニメでもそこら辺は80年代の半ばくらいまで混沌としていたわけでしょ。
王立宇宙軍」で何でこんなにダンゴっ鼻の人ばっかり出てくるのかな、とか、「ダグラム」に出てくるデイジーがまったくかわいくないとか(あれはわざとそうデザインしたらしいけど)。


逆に言えば「プロジェクトA子」とかが、それをいやらしいくらいに強調して打ち出したわけですよね。「強調して打ち出せる」ということは、そういうものがコアとしてあったということなわけで。
じゃあそれは何だったのか、という答えは、まだ出てないと思います。


だから一足飛びに「萌えとは?」とか言っても、絵柄の問題ひとつ取っても答えはやっぱり出ないと思う。その前に、本当にいろいろあったわけだから。


以下を自分メモとしてリンクしておこう。
http://ja.wikipedia.org/wiki/萌え絵