料理人一代

咲間源三郎、52歳。
和食をきわめて30年。
しかしとことん腕が悪かった。
どんなものをつくっても、まずい。
顔もブサイク。
背も低い。
頭もバカ。
なにせ、「力(ちから)うどん」を、ずっと「かうどん」と呼んでいた。
昨日、「力(ちから)うどん」だと知った。
メモに書いたが、数時間後にはまた忘れた。


そんな彼が恋をした。
美しい娘だった。
名前はミジンコウーマン、略してミジー
しかし、娘は咲間源三郎の心をもて遊んだだけだった。
源三郎のフィアンセ・ブス江は、源三郎を止めた。
「あなたには私がふさわしいのよ」


しかし、ブス江はブスとか何とか以前に風呂嫌いで、身体が臭かった。
だから、源三郎はブス江が大嫌いだったが、「フィアンセ」ということの意味がわからなかったし、ブス江の兄から200円借りていたのでしぶしぶ婚約していたのだった。


ジーは源三郎をてひどく裏切った。


しかし、源三郎はバカなので裏切られていることに気づかなかった。
そのまま、源三郎は62歳で死んだ。


その墓は、ギザのピラミッドの隣に、そのピラミッド以上の巨大さでもって我々を圧倒している。
(完)